2023年 2次試験の解説(平面計画)
全体の解説
2023年の課題は、団地でした。問題文に「RC壁式構造 4 階建ての 4 階」とあり、平面図を見ると階段室型の階段が描いてあります。全体的な寸法や、寝室とダイニングの間にある大きな開口部のあるRC造の壁などは、実在の団地にかなり近いものです。
作図内容は平面図と家具の正面図2面でした。家具図は正面図が2面であったぶん、断面図がありませんでした。
「指示内容が理解できれば作図には困らない」というのが最近の出題傾向ですが、2023年もその傾向を踏襲したものでした。
パースもなく、さらに家具の詳細図に関しても断面図が無い事で、作図力に自信のない人でも比較的回答しやすかったと思います。そのぶん収納間仕切が少し凝ったもので、指示内容の文章を読んで文章から形状をイメージできるかどうか、ということが合格のカギになったのではないでしょうか。
解法(平面計画)について
解法は色々ありますので、必ずこうでなくてはいけない、というものはありませんが、主に独学している人など、「どの様に回答を進め行ったら良いかわからない」という人に向けたヒントという位置づけで、平面計画のひとつの進め方の手順について解説して行きます。「自分はもっとこう解いた方がいい」というものがあれば、自分にあった方法で解いて下さい。それでは始めて行きます。
まず、問題用紙をエスキス用紙代わりにして、平面図の下書きとしてしまうと作図しやすいと思います。その時に、「消しゴムで消せる色鉛筆」の赤鉛筆などを使うと、見やすくて便利だと思います。消しゴムで消せる色鉛筆は、このブログでいつもお勧めしているものです。詳しくはこの記事をご覧下さい。
エスキスへの書き込みは、フリーハンドで良いでしょう。試験時間はタイトですので、あまり時間を掛けないほうが得策です。「この位置にこれを配置できるか」という検討をするには、グリッドを利用しコンパスを使うと便利です。具体的な方法はこの記事で紹介しています。
1.位置が指定されているものを書き込む
まず問題文全体にひと通り目を通したら、具体的な位置が指定されていて、向きや位置に悩まなくて良いようなものを選んで、先に描き込んで行きます。書き込みが済んだものから問題文に色鉛筆でチェックを付けていくと、混乱しにくく、作業しやすいと思います。
ホームシアターを兼ねたL
西側の壁の投影面(投影面の幅1500程度)
壁に直接投影するという事ではありますが、どこに投影するかという事は予め決めておくと、計画がしやすくなります。
投影面の位置がはっきりすると、人が座るスペースを計画しやすくなります。また、ここには家具などを配置してはダメ、という範囲もはっきりさせる事ができます。
投影面の位置を決めたら、エスキスの中に描き込んでしまうのが良いでしょう。西面の壁だという事は問題文に指定がありますので、そこに関しては迷う必要がありません。5-6人集まったときに、誰もが見やすい位置に座れる事を考慮すると、壁の真ん中辺りにしておくのが適当でしょう。
窓の位置は決まっていますので、ウインドートリートメントの位置は回答者による判断を必要とせず、自動的に決まります。このようなものをどんどんエスキス描き込んでしまいましょう。
日中でもプロジェクターの映像を見やすくできるように、遮光性の高いものを想定するのが良いでしょう。
カーテン、ロールスクリーン、ローマンシェード、ベネチアンブラインド等、設置に問題がなければ、色々な形式のものが考えられます。
迷った時は、ひとまずカーテンにしておくのが無難です。「カーテンではダメ」というケースはほとんどありませんので、この事を覚えておくと便利です。
D
東側の壁に観賞用のアートパネル 3 枚
東側の壁という事が明確に指示されていますので、指示に従います。物の陰に隠れたり、あるいは無駄な余白スペースが生じないように、バランス良く配置して下さい。問題文をよく読むとこの部屋には観葉植物とフロアスタンドも置く必要がありますので、それらの設置スペースもあらかじめ考慮しておくと、後から位置を微調整する手間を減らせます。
K
西側の壁面の冷蔵庫と西側の壁面のレンジ棚(W1200×D450)
指示が具体的ですので、迷わずに配置できます。冷蔵庫とレンジ棚の位置関係に関しては、家事動線を考慮して、部屋の入口に近い側(北側)を冷蔵庫にしておくのが無難です。
寝室
先に収納間仕切りをどんなものにするのかを決めてしまったほうが、動線がはっきりします。ですので、一旦あとまわしにして、この時点では何もせずに飛ばしておきます。
収納間仕切り
問題文をよく読んで描き込んで行きます。問題文の指示がかなり具体的ですので、全体的な形は「このようにしか計画のしようがない」という、だいぶ限定されたものになります。自分が描き込んだものが公式サイトの回答例と大きく異なっている場合は、問題文の読み間違いや、文章の中に意味が理解できない部分がないか確認して、指示通りの計画ができるようにしておきましょう。
その他
Dと寝室のウインドートリートメント
迷ったときは、ひとまずカーテンにしておくのが無難です。「カーテンではダメ」という指定が無いのであれば、カーテンが不適切だというケースはまず無いということを知っておくと便利です。
寝室に関しては、ベッドの存在が気になるものの、問題の平面図を見ると窓は腰高900と書いてあります。そうすると、仮にカーテンで計画する場合、カーテンの下端の高さも、一般的なベッドのヘッドボードの高よりもある程度高い位置に来ます。ですので、ベッドとの干渉は避けられます。ベッドとの位置関係については特に悩まずに、躊躇なく描き込んでしまって大丈夫です。
2.位置や向きの検討が必要なものを書き込む
ここまでは、問題文によってある程度具体的に指定されていることで、回答者が位置や向きについて検討する余地のないものばかりを選んで先にエスキスに描き込んできました。今の時点でのエスキス全体を見てみると、このような状態になっています。
ここまで描き込んである事で、残りのものの位置や向きの検討がしやすくなります。例えばプロジェクターの投影面を描き込めば、その投影面との位置関係でパーソナルチェア 2 脚やラグやクッションの位置が自然に絞り込まれて行きます。
ホームシアターを兼ねたL
オープン棚(W2100×D400×H1200)
配置場所を検討するときにはコンパスを使うと便利です。詳しい使い方については、このページで説明しています。
オープン棚は北側に配置すると比較的全体のレイアウトがラクになるでしょう。公式サイトの回答例は2例とも北側に配置してあります。ここから先は、青色の線で描き込みながら説明して行きます。
このオープン棚はH1200と低い棚ですし、どのようなものを収納するのかをよく読んでみると、東側のキッチンとの間仕切り壁に寄せて置くのもまた現実的な計画と考えられます。実際にそのようなレイアウトを計画して、合格できた人も居るのではないでしょうか。そのように配置した場合は、人が座るスペースは少し細長くなり、北側に少しオープンなスペースが生まれます。このスペースをデッドスペース的に見せない様な工夫が必要になります。そのような部屋のレイアウトの例を、参考として載せておきます。
小さめのサイドテーブル 1 台とパーソナルチェア 2 脚
一般的に、家具は小さいもののほうが配置しやすいです。とはいえ、小さくするにも限度があります。パーソナルチェアと呼ばれるものは一般的に、ダイニングチェアよりももう少しゆったりとして大きなものです。小さくとも、幅450x奥行き500ぐらいはあったほうが良いでしょう。もうひと回り大きな寸法でうまく配置できるなら、そのほうが見栄えの良い答案になると思います。
サイドテーブルは、パーソナルチェアに座って使うことを想定して配置すると良いでしょう。サイズは、2人分のコーヒーカップとリモコンが置ける程度のものをイメージすると自然なサイズになるはずです。角形なら350x350、丸型ならΦ350を最小限度ぐらいに考えると良いでしょう。
設問にホームシアターとして 5 ~ 6 人で使用している状態とあります。部屋のサイズからすると、5 ~ 6 人全員が横一列で鑑賞するのは厳しいです。前列の人がクッションに座り、後列の人がパーソナルチェアに座るようなフォーメーションをイメージするとレイアウトしやすいでしょう。公式サイトの回答例は2例ともその様な配置になっています。
ラグとクッションを 4 つ
クッションは座布団の様なものをイメージすれば良いでしょう。サイズについては、人が座ることを考えると、最も小さくて400x400ぐらい、円形ならばΦ400ぐらいが限度でしょう。全体的な話としては、団地の一室に友達同士が集まるという話ですから、逆にそんなにゆったりした立派なサイズのクッションが求められているような話ではありません。ひとまず、5 ~ 6 人が座って映画を見られるような空間が作れれば大丈夫なわけですから、割り切ってサクサクと判断を進めましょう。
D
6 人掛けの食卓(W1800×D900)と背もたれ付きの椅子 6 脚
デスクやバルコニーへの動線も考慮しつつ、配置します。問題文をよく読むと「ウインドートリートメントは、Dの引違いテラス戸には出入りを考慮したものをつける。」とありますので、テラス窓からバルコニーに出入りする動線は必須です。
公式サイトの回答例では2例とも上の図とだいたい同じ位置・向きに置いていますが、下の図のようにキッチンカウンターと接して置くのも現実的でしょう。例えば最近の新築マンションの販売用なの図面では、むしろこのようなレイアウトのものが多いです。
このような配置にすると、バルコニーに出るための動線は少し回り道になります。しかし、キッチン側にもバルコニーに出られるドアがありますので、バルコニーの動線計画に関しては特に問題なしと考えて良いでしょう。東側に若干広いスペースが生まれるわけですが、フロアスタンドとインテリアグリーンが配置される事、アートパネルを見せるための空間と解釈することも可能ですので、その点に関しても問題ないでしょう。
ペンダントライト
テーブルの位置に合わせてペンダントライトの位置も決めます
ペンダントライトは、公式サイトの回答例はいずれも複数描き込んであるものの、数量の指定がありませんので、1灯でも問題ないでしょう。天井照明をエスキスに描き込む時は、見やすいように、違う色の色鉛筆で描き込むのがお勧めです。
フロアスタンド
動線の邪魔とならない事が大事です。また、デッドスペース的に広く空いてしまった空間があれば、そのスペースを埋めるように配置すると良いです。この例では、バルコニー側のコーナーに配置していますが、部屋の奥のデスクスペース寄りでも良いでしょう。公式サイトの回答例のうちのひとつは、そのように配置してあります。
K
Kには特にこのタイミングで位置を決めるものはありません。
寝室
シングルベッド2台とナイトテーブル2台
特に部屋のドアの出入り、収納家具の使用のための動線を考慮します。そうすると、概ね公式サイトの回答例の位置に絞り込まれます。ナイトテーブルの位置は、公式サイトの回答例の位置に限らず、ベッドの間に置かないようにしても、逆にベッドの間に2台とも置くようにしても問題ないでしょう。
姿見
公式サイトの回答例のうち片方は、記入が漏れています。しかし、それでも合格できるという示唆と考えて良いでしょう。もう一方の回答例には2枚の姿見が配置されていますが、問題文に数の指定はありませんので、1枚でも構わないでしょう。その場合、共用しやすい位置に配置しましょう。収納のクローゼットのドアの仕上げを鏡張りとし、姿見とする計画でも問題ないでしょう。共用のものを1枚だけ、という例を載せておきます。
その他
証明器具
を配置します。エスキスの際には、違う色の色鉛筆で描き込むと見やすいでしょう。公式サイトの回答例はいずれもダウンライトが描き込まれています。無難な選択だと思います。しかし、ダウンライトに限らずシーリングライトとしても問題ないでしょう。団地をイメージできる人は分かると思いますが、問題文に個別に指定された以外で、それぞれの部屋全体の照明器具として、最低限各部屋にシーリングライトが1灯ずつ計画されていれば問題ないでしょう。むしろ、団地リフォームの実務ではそういう照明計画とする場合がほとんどだと思います。
最低限のものとして、
- 各部屋を全体的に明るくできる照明
- キッチンのワークトップを照らす照明
が計画されていれば問題ないでしょう。また、マストとまでは言えないでしょうが、
- ダイニングのアートパネルを照らす照明
が計画されていると、採点上考慮されるかも知れません。公式サイトの回答例は、2例とも計画されています。天井照明に限らず、ブラケットライトでも適した照明器具はありますので、ここの見本はその様にしてみました。
寝室に関しては、公式サイトの回答例は2例とも、ベッドの枕の直上近くにダウンライトを配置しないように工夫してあります。このような配慮も採点ので考慮される可能性がありすので、参考にしてみて下さい。
公式サイトの回答例よりももっと少ない器具数で照明を計画した例を載せておきます。見やすいように天井照明とブラケットライトは緑色で描き込みました。
観葉植物
LとDにそれぞれ配置します。この位置でなくてはいけない、という事は特にありません。動線の妨げにならないように配置しましょう。スペースが空きすぎて気になっているような部分があれば、そういう部分に配置しましょう。
「大きめの」という指示が気になるところですが、そうは言ってもあくまで団地の部屋に置くものです。テーブルの上に載せて鑑賞するサボテンのようなものでなく、床に置いて、人の腰や胸ぐらいの高さに達するぐらいのものをイメージすれば小さすぎる事はないでしょう。観葉植物にこだわるよりは、利用者の生活動線などをしっかり計画した方が良いので、割り切って時間をかけずに配置しましょう。
これで、全体的な平面計画はひと通りできましたので、あとはエスキスの内容を解答用紙に反映させて行って下さい。今の状態のエスキスの全体を表示しておきます。
3.補足
寝室の床の目地
- 900mmのグリッドを利用して、450mmおきに目分量で水平方向に目地を描きます。
- 450mmおきの線を、さらに目分量で3等分するように、150mmおきの水平方向の目地を書き込みます。
- 乱尺張りの縦の目地を、フリーハンドで描き込みます(完了)。