プレゼンテーション試験のスピードアップ作戦 ―簡略化・省略の手法―

この記事はインテリアコーディネーター二次試験の製図のスピードアップに関するものです。知恵を使って色々な「省略」をしてスピードアップするテクニックについて考えてみます。

プレゼンテーション試験は、練習を積めば積むほどスピードアップできる部分が多いです。しかし、どこかで頭打ちになってしまったり、あるいはどうしても練習時間が思うように確保できず、スキルが伸ばせないという場合には、減点されにくい方法で図面を簡略化したり、省略したりして早く仕上げるという発想を持つという事もひとつの作戦です。

この記事ではそんな簡略化や、省略の手法について紹介します。

ただしこの手法を使うのは良い事ばかりではありません。下手をすれば減点されるリスクもあります。採点者から見て、詳細に描き込まれた図面と、シンプルでスカスカに見える図面があれば、詳細に描き込まれた図面のほうを高く評価したくなるものです。
しかしそれ以上に大事な事は、完成させるという事です。未完成の答案では、そもそも採点対象にすらなる事ができません。ですから多少の欠点がある答案でも、未完成の答案よりは確実に良いのです。未完成だけは、何としても回避しなくてはなりません。
インテリアコーディネーターの二次試験は、「プレゼンテーション試験」という名前で呼ばれています。その言葉を一般的に解釈すれば、例えば図面を読み慣れている関係者のために描く申請図や施工図のようなものを期待しているニュアンスではおそらくないでしょう。どちらかといえば、一般的なエンドユーザーなど、特別に建築のリテラシーがない人の視点で見ても、空間のイメージやテイストを感じ取れる様なもののニュアンスだと解釈できます。ですから美的な要素もあった方が良いですし、建築に詳しくない人でもある程度理解できるように、親切な描き方であるに越したことはありません。ですから最終目標とするのはそういう図面です。
しかし、そうは言っても美しく仕上げたり詳しく描き込むためには、その分手数が必要ですし、時間も掛かります。

こうした事を総合的によく吟味して、どの程度の美しさや詳細さの仕上がりの図面を自分の答案とするのか、落とし所のイメージを持っておくという事はとても大事な事です。学習を始めた初期の段階では、ほとんどの人が制限時間内に製図を完成する事ができないものです。当然その状態では合格できませんので、時間内に完成できる様になる必要があります。時間内に完成できないうちは特に、何よりも優先して完成のために必要な事を考えてみましょう。

 製図の仕上げ方を大きく2つに分けると、次の様なアプローチが考えられます。

1つの方法は、端から順にきっちりきっちりと仕上げていく方法です。
もう1つの方法は、全面的に粗く仕上げてから、重要度の高い部分から詳しく、細かく手を加えていく方法です。

試験では、後者のアプローチを取ったほうが安全です。もしも前者の方法で製図を行っていて、時間内に仕上がらないという人は、まずは後者のアプローチにスイッチする事から始めましょう。

なぜなら、端から順に仕上げていって手つかずの領域がある程度残ってしまうと、未完成という風に判断されてしまう危険がより大きいからです。そうなると採点の対象にしてはもらえず、失格のようにその場で切り捨てられ、細かく採点されるチャンスも無いまま不合格になってしまうおそれがあります。それに対して、細かい描き込みができなかったり大まかな着彩しかできなかったとしても、とりあえず必要な建具や家具が外形線だけでも漏れなく書き込まれて妥当性のある配置がしてあれば、未完成というよりも線の描き込みや着色の抜けや漏れや表現力の不足という方向に解釈される可能性が大きくなり、採点の対象として残る可能性は大きいでしょう。

そして資格試験や検定試験は一般的に、ミスなく完璧に出来たものだけを合格とするのではなく、少々のミスや欠点ならば許容して、合格ラインをクリアすれば合格するというシステムで行われています。

なので、時間内に図面を完成できない人はまず、粗くとも、美しくなくとも、とにかく図面内に必要なものを漏れなく配置し切る、という事を最初の目標にしましょう。一度できる様になってしまえば、その後は練習するごとにスピードアップし、ギリギリだった時間が余るようになります。余った時間で、スカスカの図面に細かい線や色の塗り分けなどの情報を描き足して密度を上げて行くというのは、そんなに難しい事ではありません。特別な練習をしなくても、誰でも自然にできる様な事です。それよりも難しいのは、大胆に全体を粗く描いて制限時間に間に合わせる事です。これは頭を使いますし、練習も必要です。取り掛かりから仕上げまでの一連の工程について一定以上の把握が必要で、準備なしにその場のアドリブだけでなかなかできる事ではありません。

そのように制限時間に間に合うように早く図面を描くためにはどんな手法があるのか、具体的に見ていきましょう。


アルファベットで略して書き込む

 過去問題集や予想問題集の問題文を見ると、

「テレビ」
「エクステンションテーブル」
「セミダブルベッド」
「ワークコーナー」

など、エレメントの名称やコーナー名が日本語できっちりと書かれています。そして模範解答を見ても、問題文に書かれている通りに、表現を変えることなくそのままきっちりと日本語で書いてあります。これを思い切って、

「TV」
「Extテーブル」
「SDベッド」
「ワークC」

など、アルファベットを駆使して略してしまうのです。それによって、文字の画数が減って短時間で書く事ができます。これは厳密に言えば、設問に書いてあるそのものを書いているのでなく、自分勝手に変換してしまっているとうという行為なので、減点の対象となるリスクはあります。しかし、常識的に分かる様な略しかたであれば、採点官は少なくともそれが何を意図しているのかは分かるので、そんなに大減点になるとは考えにくいです。未完成と判断されてしまうよりは少々の減点のほうがずっとマシです。制限時間内に間に合わないうちは、このような頭文字による表記も検討してみましょう。もちろん、しっかり書き込むだけの時間があれば、問題文の通り一字一句忠実に表記するに越したことはありませんので、時間内に完成できるようになったら、その様に忠実な表現を心がけるようにして行きましょう。

図を簡略化する

各インテリアエレメントを、それが何だか分かる程度で、できるだけ少ない線でシンプル化して描きます。もちろん詳しく描き込んであればそれだけ描画能力をアピールできるので、詳しく描き込んであるに越した事はありません。しかしまずは全体を完成させる事が大事です。はじめは簡素な描き方で時間内に完成できるように練習して、そのうちに時間が余る様になったら、徐々に詳しく描くようにして行けば良いでしょう。

ベッドやキッチンのシンプルな描き方

平面図上の手すりの表現

形状を見ただけで何だか分かるものは、名称を省略する

例年の出題では、インテリアエレメントの名称を描き込むという指示が設問に入っています。そういう指示が出ている以上、書き込まないのであれば減点されるリスクはあります。ただしそうは言っても、形状を見てそれが何だかはっきりと分かり、他のものに見間違える可能性がないものについては、名称を書き込んでいなかったとしても、図面を見る人の立場で実際的に困る事はありません。例えば下の図を見て下さい。

ひと目でわかる衛生器具の名称を省略する事例

洗面所に左のようなものが配置されていればそれは洗面台以外には考えられませんし、キッチンに右のようなものが配置されていればキッチンカウンター以外には考えられません。
インテリアコーディネーター試験だけに限らず実務でもそういう考え方は一般的で、形状を見ただけで誰でもそれが何だか明らかに分かるものに対して、わざわざ名称を書き込んだりしないという事はよくあります。図面の用途がプレゼン用であればよりその傾向は強いです。なので、試験でも同様に、わざわざ名称を書き込むことなく、まずは図面全体を完成させてしまいましょう。名称の記入漏れという事で仮に減点されるという事があったとしても僅かでしょうし、そもそも減点されないかも知れません。もしも最終的に試験終了までに時間が余ったら、余った時間で後から書き加えるのが良いでしょう。

細かい描画の代わりに文字を併用した表現

上の項目とは逆の発想で、多くの線を引いて詳細な描画をする代わりに、文字で情報を補足して、それが何であるかをより短時間で表現するという手法です。ビジュアル的に見劣りする表現になりはしますが、細かい線を何本も引いて図として詳しく描き込むよりも短時間で済むものに関しては、図面全体を完成させるためにこの様な手法も検討してみましょう。

平面図の家具を文字で補足する表現

設問で必須とされているもの以外は描かない

設問の文章中に言及されているエレメントだけを描くようにして、それ以外のものは描かない様にします。例えば観葉植物や絵画やポスター、あるいはちょっとした収納家具などは、一般的には住宅、オフィス、店舗などに置いてあるものではありますが、描けば時間が掛かります。なので描かないでおきます。あまりにも室内の様子が殺風景であれば、コーディネートのセンスに欠けるとか、採点官が違和感を感じるという点で減点されてしまうリスクはあります。しかし必須でないエレメントをわざわざ描くために時間を使ってしまい、そのせいで設問に明記されている配置必須のエレメントを描き切れないという事になってしまったならば、そちらのほうこそ大きな減点の危険があります。作図のスピードに自信のないうちは、ひとまずは必須のエレメントだけをもれなく記入し切る事だけに集中し、それ以外のものは一切描かないという作戦を取るのが無難でしょう。最終的に時間が余ったら、後からそれ以外のものを書き足すという方が、大失敗する危険は少ないです。

図記号で表記する

エレメントを描画で表現する代わりに、建築図面の図記号によって表現してしまうという作戦です。描画するよりは、図記号を描き込む方が短時間で済みます。 図記号が配置してあれば、その器具や設備がどんなデザインなのかという事は伝わらないとしても、すくなくともそれが配置されているという事は伝わりますし、大まかな形態の分類も伝わります。照明器具など、電気関係のエレメントなどは特に、JIS規格で様々な図記号が定められているのでこの手法を使いやすいです。図面の書き方を勉強してきたという事のアピールにもなり得ます。ただし、自分で勝手にオリジナルな記号を作って描いてしまったり、図記号の図形や文字を間違えたりすると、採点者に設計の意図が伝わりません。そうすると大きな減点となる危険があります。なので、この手法を行うには、例えばJIS A0150建築製図通則など、世間に広く認められている図記号を正確に覚えおく必要があります。描く作業は苦手だけど調べたり暗記したりする事は得意だ、という人には特にお薦めの手法です。例年、設問中に天井の照明は破線で記入するという指示がありますが、その指示があれば、天井の照明はこの記号の線を破線にして記入して下さい。

電気設備の図記号の例

JIS規格の図記号の例(電気)


繋げる/まとめる

線を引く場合に、クランク状に折れ曲がった線や、中間部分が分断された線を引くのは時間が掛かります。それに比べて、ズバッと一本の線を引く方が時間がかかりません。そこで、なるべく速く引ける、一本の線でつながったビジュアルの描画方法を自分なりに研究して、各エレメントの描き方や、各エレメントの配置を工夫してみるのが良いでしょう。
手描きで速く描ける便器の表現


キッチンの配置をシンプルに表現する例



片引戸は極力アウトセットのハンガードアで描く

設問で特に指定されていなければ、片引戸はインセットや引込戸にはせず、全てアウトセットのハンガードアの仕様にしてしまうという手です。戸袋無しのアウトセットタイプのハンガードアは、片引戸の中でも特に平面図上の形状がシンプルで、早く描く事ができるからです。ただし、納まり的にこの種類のドアが配置可能な場合と不可能な場合がありますので、納まりについては考えて描くようにしましょう。納まり的に不可能な部分にアウトセットの扉を配置する事は当然大きく減点される危険がありますので、その場合はインセットのものや引込戸、場合によっては片引き戸をやめて片開き戸にするなど、納まりに合った建具を選択して描き込みむようにしましょう。

インセットとアウトセットの図の比較


以上、私が思い付くものを挙げてみました。他にも工夫次第で減点されにくい省略の手法はあると思います。制限時間内に答案が完成せず、練習を繰り返してもなかなか時間が短縮できないという状況に陥ってしまったときには、まずはこのように少々の減点のリスクを取ってでも、大胆に省略してみるというのはひとつの考え方です。クオリティが低くてもとにかく時間内に完成させるという課題をまず確実にクリアしてみましょう。反復練習をしていれば、そのうちに習熟度が上がって時間が余る様になります。そうしたら、凝って詳しく描き込んで行くと良いと思います。いきなり色々な課題をクリアする事は難しいですが、優先順位の高い課題だけに絞り込んで集中して取り組んでみると、クリアしやすくなります。着実なステップで合格の可能性を高めていくひとつの方法論として考慮してみて下さい。

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