論文試験―どんな内容を書くか

自分自身の主張は必要不可欠ではない

一般的に「論文」というと、自分の考えや主張を書くものです。それが無いものは論文と呼べないと言っても良いでしょう。しかしインテリアコーディネーター試験の「論文試験」というものは必ずしもそうではありません。むしろ、自分の考えをしっかり書こうとすると解答が困難になる事も多いので、文字数との兼ね合いで無理があると感じたら、自分の意見はバッサリ省いてしまいましょう。違和感を感じる人も居るかも知れませんが、試験に合格するためだと思って言葉の厳密な意味に囚われず柔軟に考え、時には割り切る事も大事です。

2019年の出題は、こういうものでした。

 加齢による身体機能の低下を考慮して住まいのインテリアを計画する場合に、以下の 3 つの点それぞれについて一般的に配慮すべきことを、所定の解答欄に550~600字で記述しなさい。
  • 筋力の低下
  • 視覚機能の低下
  • 聴覚機能の低下 (権利関係に配慮して文言を少しだけ変えてあります)

まず文字数の上限に注目すると、600字です。600字というと、一般的な文章としてかなり短いです。さらに3つそれぞれについて記入せよ、という事なので、単純に最大の文字数600字を均等に3で割ると、だいたい1つの点について200文字以内で書く、という計算です。さらに、問題文中には「一般的に配慮すべきことを」という指示があるので、200字の中に一般的な話を盛り込みます。するとそれだけで、文字数をほぼ使い切ってしまうものだと思います。そこからなんとか文字数を調整して自分の意見をはっきり書くために推敲に四苦八苦するような事は、しなくても大丈夫です。それよりも3つの点それぞれに対しての「一般的に配慮すべきこと」を確実に書きましょう。
ひとつの目安として、特別冗長な表現をしていないにもかかわらず、その3つの事だけ書いた時点で制限文字数の上限のおよそ8割(480字程度)を既に超えているのでしたら、自分の意見は全く書かないという風に割り切ってしまった方が良いです。あとはもうひとつの解答の要件である、最低文字数の550文字を超えられるように言い回しを変えて文字数を調整してしまえば良いでしょう。試験はあくまでインテリアに関するものであって、盛りだくさんの情報を字数制限に納める新聞記者のような作文技術を審査する試験ではありませんので、はじめから受験者にそのような技術を期待などしていない筈です。
 もちろん、問題文中に「あなた自身がどう考えるかを書きなさい」などの指示がある場合は、無理をしてでも自分の意見を確実に書かなくてはいけません。しかしそうでもない限り、これ位の制限文字数制限で、一般論を3つ盛り込んだうえに、さらにそこに自分の意見までも書くという事は困難です。ですから「一般的には~だとされている」という事実の報告を羅列するだけの内容にならざるを得ません。たしかにそういう主張や結論のはっきりしない文章は本当の意味での「論文」の体をなしてはいません。しかし試験を実施する側の人たちも、言葉の意味をそこまで深く考えずに「論文」という言葉を試験のタイトルに掲げたという可能性もあります。実務的に考えても受験者の主義主張の中身を読んで評価して点数化するなどという事は採点者側にとっては厄介な筈で、業務としてそんな事をしたがるとは考えられません。

適切な用法の専門用語を適度に盛り込む

採点者が答案を通じて知りたい事のひとつは「回答者がテキストや過去問題を読んでちゃんと勉強してきたか」という事です。例えば、例年登場する専門用語を適切な用法で使いながら回答してあると、採点官は「この人は勉強してきてあるのだろう」と考えます。なので、ある程度専門用語を盛り込む事は、しっかり勉強してきた事のアピールになります。
ただし、用語を誤った用法で使ったり、むりやりその用語を盛り込みたいが為に論点がズレたりなどすると、事前の勉強や、本質的な理解が不十分だという印象を与えかねず、かえってマイナス効果となる事もあり得ます。専門用語の記憶が曖昧になってしまった場合や、要求されている論旨とはズレた内容になると思った場合は、いくらインテリア関連の専門用語だとはいえ、その用語を使うことはむしろ避けた方が、大減点のリスクを負わずに済むでしょう。
とはいえ、そうはならない様に、一定レベルの専門用語は押さえておくべきです。特定の分野だけに偏らず、どんな分野に関する論述が求められても基本的な対応ならばできるというような、幅広い出題範囲の専門用語を理解しておく事が重要です。ちょうどそれは一次試験で勉強してきた事と重複しますので、一次試験の勉強で得た知識を忘れ去らないようにメンテナンスしておきましょう。


奇抜さ・斬新さを避ける

資格試験の論文試験には通常、採点官向けのマニュアルが存在します。それは、「◯◯について説明していれば△△点加点」のように、加点の対象となる模範解答例やキーワードが列挙して示されている場合が多いです。インテリアコーディネーター試験の採点方法の実態については公開されていませんので断言できる事ではありませんが、しかしインテリアコーディネーター試験だけが他の一般的な試験とまるっきりかけ離れた独自な方法で採点しているとは考えにくいです。
さらに想像を働かせると、採点者も報酬を得て仕事として採点しているのでしょうから、平穏に、無難にその採点の仕事をこなしたいという考え方の人が大半でしょう。あまりクセの強い採点をして問題視されるような事などは避けたいだろう、ぐらいの事は想像がつきます。ですから、採点マニュアルに記載されている通りの解答パターンに対しては躊躇なく加点する事ができるでしょうが、採点マニュアルに記載されていないような希少なパターンの回答に出くわして、「これは珍しい回答ではあるけれど内容的には正しいのだからたっぷりと加点してあげよう!」とノリノリで向き合ってくれる採点官などそうは居ないはずです。例えそれが内容的にはちゃんと正解のひとつと言える様なものであったとしても、採点マニュアルに頼ることができず採点官自身が加点の数値を判断をしなくてはならないような局面だと、どうしても慎重で控え目な姿勢になる人が多いでしょう。
ほとんどの資格試験には、珍しい回答をすれば希少ボーナスがもらえる、みたいなシステムはありません。インテリアコーディネーター試験もおそらくそうでしょう。反対に、採点マニュアルの筆頭に上がるような、多くの人が答えそうなベタ中のベタの正解を回答したほうが確実で危なげのない加点が期待できます。自分の個性をアピールするのは、合格してから実務で行えば良いのです。試験に合格するためには、奇抜さや斬新さはなるべく控えて、ベタな正解に徹しておくのが良いでしょう。

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