ひとりで学ぶ着彩─アイソメ編

 ベタ塗りで見栄えのする着彩ができるのは平面図に限りません。パース図でも、ベタ塗りで見栄えのする着彩は可能です。実際に3D-CADやBIMでは、日常的にベタ塗り状態の3Dの画像を、形状を把握する事に使用しています。ベタ塗りでも、それだけ形状を把握できるという事です。ただ、「プレゼンテーション試験」という試験の名前の言葉のニュアンスを吟味して考えると、ただ単に形状が把握できるだけのものを求めている試験という訳ではないでしょうから、いくらか見栄えの良さにも配慮した着彩を目指しましょう。

まだこのウェブサイトの平面図編を読んでいない人は、平面図編を読んでからこのアイソメ編を読んだほうが分かりやすいと思いますので、先に平面図編を読んでいただく事をお薦めします。


目次

1.リアルな色を選択して隅々まで丁寧にベタ塗りする
2.壁の明るさの違いを表現する
3.家具の影を描き足す
4.床のツヤ感
5.窓の向こうは?

1.リアルな色を選択して隅々まで丁寧にベタ塗りする


ではさっそく始めましょう。

下の図の様な室内空間に着彩して行きます。

手前の壁には破線で示した位置に引違いのテラス窓が、奥の壁には実線で描かれている様に引違いの腰窓があります。
まずは、平面図編でも手順を踏んで行ったとおりに、リアルな仕上げの色を選んでシンプルにベタ塗りで着彩します。床、ベッド、窓の額縁、巾木、ドアの枠を塗ります。壁とベッドリネンは白を想定します。

こんな状態になりました。これだけでも、そんなに悪くはないと思います。線での描画がしっかりできていれば、これで合格はできるのではないかと思います。
インテリアコーディネーター試験ではこの様に床や家具や建具など、木材の色を着色する部分が多いです。なので、木材の部分をちゃんと木材に見えるようなリアルな色を選んで塗ることが重要です。
そして木材の色というのは、ベージュ系や茶系の色ですが、彩度が結構低いです。試験ではスピーディーに着彩ができるように、ベージュ系や茶系の色を多くした18色の色鉛筆を持ち込む事をお薦めしますが、色鉛筆そのままの色では彩度が高すぎて木の色に見えない場合があるかも知れません。そういう場合は、一旦その色鉛筆の色で薄めにベタ塗りして、グレーの色鉛筆で全体的に重ね塗りしてみて下さい。少しアッシュ的なトーンの枯れた色合いが表現できて、木質系の仕上げらしい雰囲気が出ます。
そして、端まで丁寧に塗るという事も重要です。巾木、建具枠、窓の額縁、アルミサッシなども丁寧に素材にできるだけ近い色を選んで塗りましょう。難しいテクニックはなくても、それだけでかなり臨場感が出せるものです。
次に、この絵に陰影を表現して行きます。陰影をつける表現もベタ塗りで行って行きます。

2.壁の明るさの違いを表現する


この図面には2枚の壁と床が写っています。壁は2枚の壁どちらも白です。床は壁とは明らかに違う色をしていますので、このままで良しとします。
ここで2枚の壁をよく観察してみます。
Aの壁には、腰壁とテラス窓との、2つの窓からの光が当たっているはずです。それに対してBの壁は、テラス窓からの光しか当たっていません。なので、AとBの壁を較べてみたら、Bの壁のほうが表面が若干暗く見えるはずです。そこで、Bの壁を薄いグレーで着色します。
これだけでかなり雰囲気が出ました。さらに、グレーに着色した壁の面と平行な、ベッドのヘッドボードと、ベッドの足側の面にも、腰壁からの光は当たりません。なのでグレーに着色した壁と同様の考え方で、少し暗い色を重ねます。白いシーツの部分は薄いグレー(ミディアムグレーの色鉛筆で薄く塗る)で、ベッドのベージュ系の木質系の部分は、ダークブラウンの色鉛筆を塗り重ねるといい雰囲気になると思います。
だいぶ雰囲気が出ました。これぐらいの表現ができていれば、試験で合格するには十分だと思います。色々手を加えると失敗するリスクもありますので、余計な事をして失敗したくないという人は、この状態でやめて提出しても良いと思います。
基礎編はここまでです。
ここから先はさらに充実した着彩に仕上げるための応用テクニックを説明します。

3.家具の影を描き足す

このアイソメで見えている範囲で、確実に他の部分よりも暗いだろうという部分があります。それはベッドの向こう側です。ベッドの向こう側の床面には、腰壁とテラス窓のどちらからも直接光が当たらない部分があるはずです。そして少し高度ですが、その様に2つのどちらの窓からも光が直接当たらない部分は、床だけでなく、壁にもあるはずです。その部分の形を想像しながら、影を描き込んで行きます。すると下の図のようになります。

だいぶリアルになりました。そろそろ「パース」と呼んでもおかしくない様な雰囲気が出てきたと思います。定規を使って着色するなどして、影のエッジをシャープなラインにするとリアルな雰囲気が出ます。実は、今影を書き込んだベッドの向こう側の以外にも、腰壁とテラス窓のどちらからも直接光が当たらない、他と較べて確実に暗くなる箇所というのがあります。それはどこだか見つけられますか?
それは、窓がある2つの壁のコーナー付近です。ここにもどちらの窓からも光が直接当たらない部分があるはずです。ただ、この部屋の室内は壁が白く、その白い壁が光をだいぶ反射しますので、間接的にいくらか反射光が当たります。ですからそこまで濃い影にはなりません。その事も考慮に入れて、影を足してみましょう。

また少しリアルになりました。
試験の答案としては、これぐらいの表現ならばだいぶ充実していると思います。この図では少し物足りなく感じるかも知れませんが、実際の答案はもう少し多くの家具が配置されていますので、そんなに物足りない感じもしないでしょう。あまり言い過ぎると他人の悪口の様になってしまいますが、色々凝って描き込んであるけれど、あまりリアルに見えない手書きパース図というものは多い気がします。試験の採点者も、そういうパース図は見飽きるほど繰り返し見ていると思います。そんな中で、地に足の付いた写実性があって、ごまかしたような雰囲気が無く丁寧に仕上げてあるものをズバッと提出すると、見やすさも新鮮味もあって良いのではないかと思います。

4.床のツヤ感

最後におまけです。テラス窓からの光の反射を描き込んで床フローリングのツヤ感を表現します。ツヤの部分は周囲の床よりも白っぽい色で表現します。チャレンジしてみたい人は、どのような手法でこの白っぽい色を表現するか、考えてみて下さい。ヒントは平面図編にあります。

5.窓の向こうは?

腰窓の向こう側をどの様に表現するか、について説明したいと思います。この図では真っ白にしていますが、あえてそうしています。真っ白にする事で、窓の外が明るく、窓から光が入って来ているような雰囲気が出ていないでしょうか? 実際に、梨地の型板ガラスやフロストのフィルムが貼ってある窓ガラスの場合、日中の窓はこの様に白く見えます。
実は、窓の外に効果的な描き込みをしてリアルに見せるという事は、難易度が高いです。問題に、窓の外に関する情報も与えられていればそれを描けば良いですが、自由な描き込みとなると技術ばかりでなくセンスまで問われます。それでも、もしも見上げている視点のパース図であれば、青空を表現するといった汎用性のある手法がありますが、この図の様に見下げた視点の場合、何を描くか考える事から始める必要があります。
試験時間は限られていますので、問題で指示されていない限り、あえて真っ白にしておくのが良いと思います。

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