[一次試験] 難問―過去問題の解説2021年度(第39回)第2問ア 「実務に関する」

インテリアコーディネーター一次試験2021年第39回第2問アの解説

問題は下の文の(?)に入るものを3つの選択肢から選ぶというものです。

工事を伴う業務では、依頼者の要求条件や希望などをまとめ、基本計画に基づき(?)を作成し依頼者の了解を得たら、請負業者への見積り依頼を行う。業者から出てきた見積金額が予算内で収まっているか、妥当な金額なのかをチェックすることは重要な業務である。

【選択肢】1.室内パース 2.設計図書 3.プレゼンテーションボード

「2.設計図書」が正解です。

私は難問だと思いましたので、解説を載せておきます。

この問題、選択肢「1.室内パース」は明らかに間違いだと思いますが、問題をしっかり読むと「3.プレゼンテーションボード」でもあながち間違いとは言い切れませんし、2と3とで「最も適当なもの」がどちらなのかは、甲乙つけがたい気がします。3の方が自然で、2はむしろちょっと不自然に思えるという意見の人も相当多いのではないかと思います。おそらく実務の経験がある人ほど、そう思う人が多いのではないでしょうか。

結論から言うと、しっかり読んで「3」と答えて不正解になってしまい、「2」が正解である事に納得できない人は、それで構わないと思います。当問題は問題作成に大きなミスがあると考えられます。

その理由を解説します。

この問題をよく読むと最初に「インテリアコーディネーターの実務に関する」とわざわざ書いてあって、さらには「依頼者の要求条件や希望などをまとめ、基本計画に基づき」と進捗状況をある程度詳細に説明しています。そこまで読んで当問題が実務の手順に関する出題だという意識で続きを読み進めようとするのは読み手としてごく当たり前です。

そういうモードに切り替わった頭でリアルな実務の手順をイメージすれば、要求条件や基本をまとめ、基本計画ができたとして、そのまま続けざまに実施図面(=設計図書)の作成まで進めてしまうなんて事はまずあり得ません。「ア」の段階まで来たら、依頼者に一旦概算金額とラフなスケッチを示して、「こんな感じですが、イメージとご予算は大丈夫ですか?もっと詳細な設計に進みますか?」という確認のプロセスが入ると考え、そのツールとして「3.プレゼンテーションボード」を使うのかな、と考えてしまった人が居るとすれば、むしろそれこそ一般的で現実的な実務の進め方だと思います。「請負業者への見積り依頼」というのが、「本当にこれ位の金額で工事ができるだろうか」とウラを取る為に請負業者さんに概算金額を問い合わせる事かな、と考えればその部分でも話が噛み合います。特に工事の規模が大きい場合だと基本計画ができたらその次は基本設計のプロセスも入るわけで、実施設計などさらに後の工程です。

仮に四角「ア」の部分を「設計図書」と埋めて読んでみると、基本計画ができたら連続した流れで実施図面(=設計図書)まで作ってしまい、そこでようやく依頼者の了解を得るためにプレゼンなり問い合わせなりをするという風に、特別ひねくれた読み方をしなくても読めてしまいます。そこまで作業を進めた段階でキャンセルされたり、根本的なアイディアの出し直しを要求されたりするようなリスクは誰でもイメージできるので、現実的にそんな業務の進め方はまずあり得ません。それが頭に思い浮かんでいながら「2」を正解として選択するのにはかなりの抵抗があるのが普通です。

それにもかかわらずなぜ出題者は「2」を正解としているのか、という話です。さらにはなぜ複数のスクールの解答速報までもが「2」で一致しているのか、という話です。あくまで毎年試験問題を繰り返し見慣れている立場であるからこそですが、出題者の意図を全く想像できないではありません。もしも問題の作成者に問いただしたならば、おそらく「『見積』って言ったら、建設業法上で定義されている『見積』に決まってるでしょ。それには設計図書が必要でしょ。」という答えが返って来るでしょう。

しかし、そんな通り一遍の言い訳では逃げきれないのがこの問題固有の重い出題ミスです。どこにもそういう注釈を示していないうえ、冒頭で「インテリアコーディネーターの実務に関する」とわざわざ断りまで入れてしまっています。そういう問題のはずなのに、正解を選び出す決定的な判断要素がまさかのリーガルマターでは、回答者に対する裏切りが酷すぎます。リーガルマターを判断要素にさせたいのならば、せめて「建設業法に関する」だとか「インテリアコーディネーターのコンプライアンスに関する」などの書き出しで出題すべきです。それをするだけで読み手の頭はそういうモードに切り替わり、一定の知識を持つ受験者ならば出題者の期待するような判断プロセスで「2」が正解だと導き出せるようになるはずです。「インテリアコーディネーターの実務に関する」という書き出しなのは、過去の年度の問題文をコピペして済ませているせいだとみられます。例年、第2問は事務まわりに関する出題なのですが、2020年の試験と2021年の試験では第2問の冒頭の部分が一字一句違わずまるっきり同じです。冒頭の部分以外でも、実施設計と見積というワードがどちらも登場し、字面が相当似ています。

ただし、2020年の第2問1の出題は出題のしかたは特におかしくはありません。それに対して2021年の当問題は、作成者が意図した正解「2」では相当な違和感があり、誤りの選択肢であるはずの「3」で話の筋道が成立するという問題に出来上がっています。おざなりに過去問題から材料を集めてそれらの組み替えで問題を作成し、チェックも十分にしなかったのでしょうか。ひと通り出来上がった問題文を読み返して、「過去問題にすっかり慣れてしまった自分ではなく、まっさらの状態でこの問題文を初めて読んだ人にとってどう読める文章か」という事を十分にチェックすればこういう事は起きなかったと思いますが、そこを詰めきれなかった出題者の推敲の甘さは否めないと思います。本当に実力のある者を合格者として認定したいのならば「毎年恒例の問題なので、ある程度過去問を勉強している人は正解できるはず」というウチワネタ的なノリではなく「正確な知識を持っている人ならば、当試験の過去問題に慣れていようが慣れていまいが正解できるようにする」というスタンスを持っておくべきではないかと思います。

そもそもこの問題は「最も適当なものを選んで」という出題です。例えば同じ尺度で数値によって比較するのであれば微妙な違いでも構わないケースがあるでしょうが、この問題のように異なる評価軸で「どれが適当か」という三肢択一をさせるのであれば、1つは十分に妥当であり、残り2つはっきりと妥当性の劣る選択肢にしなくては問題として成立しません。たまたま2021年の試験では「2」が正解でしたが、別の年に全く同じ問題が出題されて、出題者が「この問題はあくまで本物の実務を知っているかどうかを確認するために出題したんです」と言えば、「3」が正解になってしまう事もあり得ます。もしも仮に出題者にとってミスとして思い当たる部分が全く無い、完全に満足の行く出来の問題なのだとしても、出題者の気まぐれで正解をどちらにもできてしまうムリゲーですので、試験問題の作成のしかたとして私は感心しません。

個人の見解ではありますが、この問題で3と回答して間違ってしまい、なぜ2が正解なのか解らないという状態であるのならば、無理して解ろうと努力しなくても良いと思います。試験の主催者が認めるかどうかは分かりませんが、客観的に見てこの問題は問題作成者がミスをした失敗作です。この問題の復習には時間を使わず、他のもっとはっきり、スッキリと正解が判定できる問題に関する勉強に時間を使うのが良いと思います。

この記事をツイッターで広める