[一次試験]西洋史の暗記(1) 最初に覚える4つの建築様式
インテリアコーディネーター試験の一次試験で出題されやすい西洋史についてどこから覚えて行くか、の話です。
歴史というジャンルは学習が苦痛で、特に暗記が苦手という人も居ると思います。しかしどうしても試験での出題は「覚えておかないと答えようがない」というタイプになりがちです。色々な出題のバリエーションがあり、例年結構な配点がありますので、頑張って覚えましょう。
しかしただ頑張れと言っても覚える必要がある内容は結構多いですし、端から単純に丸暗記しようとするのでは辛いうえになかなか覚えられません。
そこでまず、主要な4つの建築様式と、それぞれが出てきた順序を覚てみて下さい。それがしっかり頭に入ると、その時間軸との関係性で他の事も覚えやすくなります。
その4つの建築様式について、気楽に読めるように読み物にしてみました。ちょっとした息抜きのつもりで読んでみて下さい。
はじめに、下の四角に入る4つを埋める事はできますか?
それがこの記事のテーマです。埋められない人は、この機会に埋められるように覚えましょう。それぞれの四角の中には、
正解は次の通りです。
古代ギリシャ→古代ローマの部分は、ほとんどの人が特に勉強しなくても高校までの歴史の授業の記憶でなんとなくでも分かると思います。その続きの4つの様式と時代、そして特徴について覚えて行きましょう。
プロローグ: 古代ローマの終わりと中世のはじまりゴシック、バロック、ルネサンス、ロマネスク (五十音順)
の4つの建築様式のどれかが、重複せずに入ります。
目次
1. ロマネスク
2. ゴシック
3. ルネサンス
4. バロック
古代ローマの終わりと中世のはじまり
少し時代を遡って、古代ローマ時代の話から始めるとより分かりやすいと思いますので、そこから始めます。古代ローマ時代は、ひと言で言うと活気に満ちた豊かな時代でした。産業や経済が大きく発展し、その中で建築も発展しました。時代的には相当昔なので、現代人と当時の人とで感覚が違うこともかなりあります。人々の娯楽や道楽は現代のようにたくさんありません。たくさん人が集まれるデカい建物があるというだけで、当時はものすごいエンタメでした。その中核的なものが、神殿でした。パンテオンなどはその代表格で、世界中探しても他にはどこにも無いような巨大なドームが、世界の最先端を行く超話題スポットでした。完成したのは2世紀の前半で、古代ローマの最盛期ともいえる時代でした。
そんな豊かだった古代ローマの時代も、2世紀の終わりごろから雲行きが怪しくなり始めました。一時的に持ち直したりもしましたが、ローマ帝国の没落とともに経済や文化もひっくるめて、とにかく社会全体の元気が無くなっていきました。帝国が最終的に滅びた6-7世紀あたりからの時代を「中世」と呼びます(諸説あり)。この中世というのはひと事でいうと、軍事力と宗教を利用した権力集中化の時代です。支配層は自分たちが支配者である社会体制を維持したいので、社会が変化しないようにしないようにと注力しました。それに対して圧倒的多数の被支配層は、絶対的な権力を持つ権力者から目をつけられないように大人しく、やる気なくただ生きているような時代だったみたいです。そんな中世を暗黒時代なんて名付けた人までいます。今ではちょっと考えにくい事ですが、文化や技術の水準が前の時代より後退してしまったとも言われています。昔の古代ローマ時代の技術ならば作れたものが、中世の時代の技術では作れないという事態です。たとえばパンテオンの様な巨大なドームはその典型です。あの規模のドームはもう作れない、しかしなんとかして再び作りたいという欲求は長らく建築技術者たちの大きなモチベーションのひとつでした。そのローマの巨大ドーム建設技術を完全に越えたと呼べる技術が現れるのはかなり後のルネサンスまで待たねばなりませんでした。現代の様に様々な分野の学術的な資料や論文がちゃんと保存されたりなどしていなかったので、そういう事態も起こり得たのでしょう。
この暗黒時代は、ちょっとやそっとの不景気のようなものではなく、世紀単位で長く続きました。
1.ロマネスク
中世にはかつてのローマ時代にあった様な科学や産業の技術が色々失われ、建築技術までも失われてしまったと言われていますが、さすがにその状態からいつまでも何の進歩も無かった訳ではありません。革新的な技術は生まれなくともコツコツと改良が積み重ねられ、なんとなくその時代らしい、過去のものと見分けられる感じが出てきたという、そんな時期がロマネスクなのかな、と私は解釈しています。年代で言うとだいたい10世紀~12世紀あたりです。
ロマネスク建築の特徴はひと言で言うと地味です。
まず、決定的な名作とされる建築の数自体が他の様式と比べると少なめです。
ローマ時代の建築技術を失ってしまった状態から、そこまで大きくは前進していませんので、例えば中間に柱を立てずにロングスパンの広大な室内空間を作る様な事はできませんし、壁を崩壊させずに大きな窓を作るなどといった事ができません。そのせいでデザインは常識の殻を破れず、おとなしく、小さくまとまっています。ロマネスクといったら、建築専門の研究者にとってさえ、なんだかいなたい、つまらない、と見る向きもあり、全般的にあまり評価されていない様な傾向があります。しかし、よく言えば素朴さや質実剛健さがあります。また、最後の方にはいくらか洗練されて、ピサの斜塔で有名なイタリアのビサ大聖堂といった、立派なものまで登場します。
ここで取り上げている4つの建築様式の中では、年代が最も古いというのがひとつのポイントです。なんせ千年近くも前のものですから、古臭さは相当なものがあります。例えば写真を見て建築様式を判断するような出題があった時に、「今の建物と比べてそんなに古い様には見えない」という印象をもしも自然に感じたならば、ロマネスクではない可能性が大きいです。
「ロマネスク」の語源は「ローマ」から来ており、のちの考古学者によって名付けられました。どうにかこうにか古代ローマの名残を受け継ぎ続けてきた、というニュアンスや、地道に積み上げ直してきた技術によってなんとかしてかつての古代ローマのようなものをリバイバルさせようとする風潮が感じられた、みたいなニュアンスなのかな、と色々な資料を読んで私は捉えています。ちなみにネイティブの人がこの「ロマネスク」という呼び方をするのには、日本語でいうと「ローマもどき」「ローマくずれ」「ローマごっこ」のような、若干ディスっているニュアンスが入っているそうです。
2.ゴシック
ロマネスクの時代には、失われてしまった古代ローマの技術を取り戻そうとばかりしていた訳ではなく、その時代なりの独自技術も模索されていました。その成果がある程度蓄積され、やがて古代ローマとは異なる方向性の進化・発展も見えてきました。その流れで生まれたのがゴシックです。年代で言うと12-15世紀あたりです。
後期ロマネスクの時代にはリブ・ヴォールト、フライング・バットレスなどの新しい構造フレームの技術が生み出され、それによって古代ローマのドーム建造技術とは異なるアプローチで大空間を構築するという可能性が生まれました。
その可能性を徹底的に引き出した様式がゴシックです。柱のない大空間を多少は大きく作れるようになり、壁を崩壊させる事なく大きな窓を作る事も可能になりました。同じ技法を共有していますから末期のロマネスクと初期のゴシックは共通点が多いです。というか、境目がはっきりしていません。とにかく、地味だったロマネスクに対してゴシックは派手で装飾的になりました。お小遣いの少なさで身なりの地味さを余儀なくされてきた黒髪の高校生が、大学に進学してアルバイトで得たいくらかの経済力で、ド派手な金髪に大変身を遂げたかの様です。
ただし、その架構技術はまだ限られています。少ない引き出しを徹底的に使い倒すような事をしていたため、デザインのクセが強めの建物になります。垂直のラインが強調された上に屋根の形から窓の形から広間の天井から、至るところがツンツン尖った雰囲気です。華やかさはありますが、濃い味で同じ味ばかり、みたいな所も否めません。
その点に関しては批判的な見方が実際にあります。ヨーロッパには古代ギリシャ─古代ローマの時代に確立された文化こそが古典であり、正統であるとする保守的な見方も根強く存在しています。その層からは「あんな縦方向にばっかりツンツン伸びたキモいデザインなんて建築ではない」と異端視されています。2020年M-1グランプリで優勝し「あれは漫才なのか」と論争を巻き起こしたマヂカルラブリーを思い出させます。しかし中世という言葉を耳にすればやはり甲冑に身を包んだ騎士の背後に縦長のシルエットでそびえ立つゴシック様式のお城や教会のある風景のイメージが自然と連想されるもので、ひとつの時代を築いた様式と認めないわけには行きません。古代ローマの伝統を評価軸にして考えれば異端なのかも知れませんが、ゴシック様式なりの美しさの追求は独自の方向性で次元を高めていき、そんなゴシック建築を愛好する人も多いというのは事実です。念のため間違えない様に言っておきますがマヂカルラブリーとゴシック建築とではゴシック建築のほうが時代的に古く、マヂカルラブリーの登場は21世紀であってかなり最近です。吉本興業所属です。
ゴシック建築の名作はヨーロッパ各地に広くありますが特に多いのはフランスとドイツです。やはりイタリアは古代ローマの文化こそが偉大な古典という感覚が強いですから、毛色の全く違うゴシックはそこまで受け入れられなかった様です。反対にフランスやドイツでは、イタリアへの対抗意識や、自国発祥でもないローマ文化に対する「ローマ文化疲れ」みたいな反動のような感覚もあって、人気が出たのかと思います。
ゴシック様式はローマの古典の系譜から外れており、外観的な特徴がかなりはっきりしていますので、試験問題に写真が載ったときに「これはゴシック建築だ!」と判りやすいと思います。
3.ルネサンス
ルネサンスというのは、ひと言で言えば明るくて快活な時代です。輝かしかった古代ローマがガッタガタになってしまってから、それ以降の時代を暗黒時代と名付けた人々も居ますが、そうした人々に取って、暗黒時代を終わらせてくれたのがルネサンスの時代だ、という存在です。年代的には、15-16世紀あたりです。
イタリアのフィレンツェに、メディチ家という大金持ち一家が現れて、様々な文化や技術を育てる活動をしたのですが、そこに芸術、自然科学、建築、金融など、あらゆる分野の大天才たちが奇跡的に大集結しました。誰もが名前を知っている天才科学者のレオナルド・ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイ、芸術家のラファエロやミケランジェロといったスーパースター達が大活躍して人類の技術や文化の発展に寄与する数々の大きな功績を残しました。建築でも、ブルネレスキ、ブラマンテ、そして画家や彫刻家としても有名なミケランジェロ等、優れた建築家が登場し数々の傑作を残したり、革命的な工法を開発したりしました。
ブルネレスキは物理と数学の理論を応用しフィレンツェ大聖堂に古代ローマを超える大きさのドームの建設を成功させ、歴史的偉業の達成として賞賛を受けました。ブラマンテはルネサンス建築の最高傑作と言われるテンピエットを残しました。
ルネサンス様式の作風的な特徴としては、水平ライン、勾配のきつくない屋根、正円や円弧など、すっきり見える幾何学的要素をフィボナッチ数など人間の視覚的な安定感を引き出す比率を駆使して配置しており、すっきり整然としています。私の個人的な印象ではありますが、現代人のセンスで理解不能な部分が少ないという印象です。イタリア人の多くは古代ローマの伝統美や様式美を受け継いでいないゴシックに対して違和感や反発心を抱えていましたので、ルネサンスにはゴシックからのつながりが感じられず、むしろゴシックの雰囲気を意識して排除したかの様にまるっきりガラッと異なった雰囲気です。反対に古代ギリシャー古代ローマの伝統は強くリスペクトしていて、積極的にオマージュ的な採り入れを多く行っています。
2019年M-1グランプリで優勝したミルクボーイの、行ったり来たりを繰り返す独特の漫才の構成は発明や革命とも評されました。しかしあくまでもスタイルの根底は王道のしゃべくり漫才で、保守的スタイルにやや偏重気味のオール巨人師匠をも大いに感心させ、全ての審査員から高く評価されました。当時の大会史上最高得点を獲得しました。ルネサンスも同様に、技術的には人々をわくわさせるような飛躍的に高度で革命的なものを生み出しながらも、一方では様式に則った正統派の流儀を押さえていたので、保守的な層からも革新的な層からも支持されやすく、一大センセーションを巻き起こしたのではないかと思います。
4.バロック
バロックというのは、ひと言で言えば華やかで装飾的な建築です。縦のラインが強調されてツンツン尖っていたゴシック→水平線や正円の組み合わせで生前としたルネサンスという流れで来て、何かこれまでに無い新しいものということで「今度は波打つ曲線だ」という事になった様な、そんな印象です。年代的には17-18世紀辺りで、後期バロックは近代に差し掛かっています。初期にはイタリアでも盛んでしたがまもなく失速し、のちにフランスやドイツの方がより盛り上がりを見せて行きます。
ルネサンスの時代を通過してきて、またルネサンスを特に否定するような立ち位置でもないので、ルネサンスの面影もかなりあります。ただ、ルネサンスの比較的シンプルな幾何学性とは違い、楕円や連続した曲線を採り入れたり、多くの彫刻を配置したりして、ゴージャスでエレガントな雰囲気です。個人的には、バロックの名建築に出かけて、そこでブルボンのお菓子を食べてみたいです。
しかしヨーロッパ全体でそこまで広く大盛り上がりしたという感じではなく、ゴシックやルネサンスに比べると、大傑作とされる作品の点数はやや少なめの印象です。有名作品が多いのはフランスとドイツです。バロックのさらなる進化系にはロココというものがあります。ロココはバロックの一種だという考え方もあります。バロックもロココも流行った期間はそこまで長くはなく、またバロックの終盤の18世紀という時期は、すでに現代建築として捉えられ始める辺りの時期に差し掛かっています。18世紀の後半にはアメリカがイギリスから独立し、以後は建築の分野でも世界の最先端をリードする新勢力として一気に台頭してきますので、それ以降の西洋建築史の舞台はヨーロッパ大陸だけに収まらなくなってきます。
以上の4つの建築様式をまずは覚えてみて下さい。これらは非常に有名ですし、試験にもよく登場します。そしてこれら4つを覚える事で、他のものが覚えやすくなります。
例えば現代建築の用語とこれらの建築様式が混ざって選択肢として登場した場合には、これらの建築様式の方が古いという事がすぐに分かります。
また、近代に入ってからこれらの過去の様式のリバイバルが流行した時期がありますが、そうした時期に関しても理解しやすくなりますし、過去の建築をオマージュした作品についても、どの時代の建築をオマージュしているか、といった事が分かるようになります。